「でもこの辺りに住んでて引っ越すことになったのに、なんでまた私のところなの?」

「仕事の打ち合わせするのに便利なんだよな」

「じゃあ引っ越さなきゃよかったのに」

「いや、俺、去年まで1年近く海外に行ってて部屋の更新手続き忘れてたんだよ。
保証人になってた兄さんから電話来て、即効戻ったけど手遅れだったみたい」

「えー」

「だからこの2ヶ月はすごいバタバタしてたなー。
部屋決まんないし、友達の家もだいたい結婚してるから行くわけにいかないし」

「私のところは良かったの」

「だって、香穂のところに行けばいいって言ってくれたの、おばさんだし」



だから瞬ちゃんと一緒に住むことを言ったとき、反対もしないであんなに笑ってたの!?

意外な黒幕が身近にいて困惑する。



「まぁ、元彼と住むとか嫌かもしんないけどさ、少しの間よろしくな」

「べつに嫌じゃないけど……」



またこんな風に瞬ちゃんと話すことができるのは嬉しい。

だけど瞬ちゃんも私も、付き合っていた頃の思い出を話すことはしなかった。
ずっとこれからのことだけを話した。
不自然なくらいに。過去の関係を無かったことにしようとしているみたいに。