「この観覧車は、最上階まで1時間かけてあがる。それまで食事にしよう」
六畳の部屋ほどの広さがある箱の中央に、テーブルがあり、その上には豪華な食事が並んでいて、食事ができるらしい。
「…まさか観覧車の中で食事するなんて想像してなかったわ。嬉しい、連れてきてくれてありがとう」
「そうか…喜んでくれたなら、内緒にしておいて正解だったな。冷めないうちに、食べよう」
夜景を見ながらの、美味しい食事とお酒、彼とのたわいもない会話がとても楽しく、2人が恋人同士のように思えてくる。
上昇している事に気がつかないほどのゆっくりとした速度で動く観覧車とホテルの行き来が可能らしく、食事が終わる頃を見計らって、男性が2人乗ってきてテーブルを下げて行く。代わりに2人がけのゆったりとしたソファを置いて降りて行き、箱の中の照明が薄暗くなった。
食事をしていた時とは違い、夜景の灯りが鮮明に映え、室内が一気に甘い雰囲気に変わった気がして、急に鼓動が速くなり、箱の隅で夜景を見るふりをしていたら、高橋さんは、早々にソファに座り余裕ある態度で『来いよ』と私を呼んだ。
隣に座らないといけないの?
落ち着かない鼓動が彼に聞こえてしまう気がして、その場から動けないでいた。