私の頬にチュッと軽い音をたてた彼は、何食わぬ顔で車を発進させた。
もう…もう…と顔を真っ赤にさせて唸る私の横で、鼻歌が始まった。
あっ、また…
「その曲、前にも歌ってたよね。すきなの?」
「あー、まぁな。学生の頃流行ってて、気分がいいとつい、口遊んでるな」
「ふーん……私といて楽しいからだったりする?」
「あぁ」
さっきの揶揄った仕返しにと反撃してみたが、ニヤッと笑う高橋さんにはお見通しだったようで、私の仕返しは裏目にでる羽目になった。
「こうして、千花を隣に乗せてデートしてるんだ。楽しいに決まってる」
膝に置いていた手を掴まれ、そのまま手を繋なぎ直した彼は、前を見たまま何食わぬ顔で話すが、私は、握られた手を見つめ、真っ赤な顔を更に真っ赤にさせている気がする。
なんの返しも出来ない私をチラッと見た高橋さんは、『真っ赤』と呟き笑う。
「どうして笑うのよ」
真っ赤な顔のまま頬を膨らませ文句を言うしかできない私。
甘く勘違いするようなスキンシップも…
キスや甘い言葉を重ねられても…
体を重ねた相手でも…
私の恋の一方通行だろうな…としみじみ思ってしまう。
言動一つ一つに、私だけが振り回されているのだから…
「もう、くやしい…」
「何がだよ」