「お待たせ」
「あぁ…さて、行くか」
彼がそらくんから手を離した瞬間、そらくんは一目散に逃げていき、ソファの下に隠れてしまった。
「…どうしたんだろ?高橋さんにお腹を撫でてもらって、遊んでいたのに…」
首を傾げる私に、彼は惚けた口調で
「寂しいんじゃねーか」
と、私の手首を掴み玄関に向かって歩きだすが、ソファから顔を出したそらくんは、こちらに向かって威嚇するように歯を見せていた。
私は、そらくんが気になり彼に引っ張られながらも振り返ってしまう。
「なんだか、怒ってるみたい」
「だろうな‥」
「えっ、なんで?」
「ほっとけ…」
そう言われても、気になる様子が彼に伝わったらしく
「余計な事考えずに俺の側にいろ」
命令口調なのに、そのセリフは、ほんのり甘酸っぱくて、口元が緩み照れていたら、彼は『置いていくぞ』と素っ気なく玄関を出て行ってしまった。
そんな彼の心理がわからなく、浮上した気持ちを持て余して、なかなか現実に戻って来れない。
少し離れた所から、ミャーと鳴く声に意識は向くと、寂しそうに目を潤ませている姿が自分と重なった。
『早く来いよ』と彼に急かされ、私の心は彼を選んだ。
「そらくん、お留守お願いね」