「これは下げてくれ」

今日は、気分がよくボトルを空にしてもお酒に呑まれる気がしない為、ネームプレートとペンを返し、新しいブランデーの栓を開けてグラスに注いだ。

カラカラとグラスの中で氷が回る様子にも、なぜだか気分は上がる。

「にやけてて気持ち悪いぞ」

グラスを持ち、琥珀色の液体の中で氷を回して、にやけている俺を康太がけなす。

「あぁ、俺もそう思うよ。この歳で10代の青臭ガキのようにキス1つで舞い上がるなんて思もっていなかった」

「へー…って、相手は千花だよな?」

「当たり前だ…お前に言われてから、このモヤっとして苛立つ気持ちがなんなのか考えてた。あいつが俺との時間より男を優先して急いで帰る姿が、ずっと頭の中から離れないのはなぜなんだ?俺と言い合いしてまでロクでもない男を庇って…何でだよって思う度、ギュッと鷲掴みされたように胸が痛くなるのはなぜってな。そして、千花が俺以外の誰かと楽しく過ごしてる姿を想像するだけで、あいつの側にいるのは、なぜ俺じゃないのかって思うと虚しかったよ」

康太は洗い終えたグラスを拭く手を止め、珍しいものを見る目で驚いていた。

「これが恋なのかって聞かれたらまだ頷けない。だけど、誰にも渡したくないって思ったのはあいつが初めてだ」