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キスした時、千花は放心状態で何度も瞬きを繰り返して俺を見ていた。自分でもまさかの展開で、何気ないふりを装って出てきたが、内心ドキドキしていた。
つい、数10分ほど前までは、そらくんが人間の男だと思い、対決し必ず奪うと宣言するつもりで意気込んで千花の部屋に上がったはずが、そらくんの正体が猫だったなんて…
数日前にやっと千花に対する気持ちに気がつき、彼氏という存在に危機感を覚え焦っていたが、恋敵が猫なら遠慮はいらないだろうと、強引に理由づけてキスしたのだ。
放心する彼女のマンションを出てから、柔らかな唇の感触と、ふっ〜とこぼれた千花の吐息を思い出して、1人帰る道でも気分は上昇し、赤い月を見上げながら鼻歌が自然と出てくる。
その曲は、先程と同じだった。
(…♪ほら あなたにとって大事な人ほど すぐ側にいるの ただ あなたにだけ届いてほしい 響け恋の歌 ♪)
鼻歌なのに熱唱してしまい、歌いきった俺は満足して数メートル先の康太の店に駆け足で戻った。
「お帰り…」
ご機嫌で椅子に座り『いつものボトルで』と言う俺の珍しい注文に、ボトルとネームプレートとペンを出す康太は怪訝な表情をしている。