つい忘れていたが、まだ、高橋さんの中でそらくんは人間の男で、誤解を解いていなかった。
「あのね、そらくんは…」
「彼氏を庇うのはいいが、俺は好きな女がこんな夜道を1人で帰ってると思うと心配で、迎えに行けないなら連絡ぐらいするぞ。それなのに、一度も電話もかけてこないじゃないか?」
私の声を遮り、凄い剣幕の彼に驚き黙ってしまった。
ネコだもん、無理だよ。
「だからね、聞いてよ」
「聞きたくない。働いてもいないでお前の帰りを家で待ってるような男のどこがいいんだか」
マンション前で立ち止まると、握っていた手を引かれ、自然と高橋さんの腕の中に囲われてしまう。
えっ、なんで?
「そんな奴がお前の好きな男なのか?」
軽い重みを乗せた彼の顔が私の肩にあり、今までにない至近距離に戸惑って、高橋さんの胸を押し腕の中から逃れようとしたら、囲う腕に力が加わり逃れなくなる。
この状況に答えられないでいる間に追い打ちをかけ言葉を重ねてくる。
「俺と一緒にいる時間より、早く帰りたくなるほど好きなのかよ?」
耳元で聞こえる切ない声に勘違いしそうで、早くそらくんは猫だと言わなければと気持ちが焦っていく。