私は、思わず心で願ってしまう。
どうか、高橋さんの彼女になれますように…
高橋さんは私の横で、黙って月を眺めていた。
その横顔があまりにも切なそうで、胸の奥がチクリと痛む。
彼にそんな表情をさせる人に、嫉妬していたのだ。
今日の高橋さんのおかしな言動は、きっと私に似ているというりんさんを重ねて見ているからなのだろう。
この握る手は、私に向けたものじゃないのだ。
振り解こうと思えば振りほどける手…りんさんの代わりに手を繋がれていると思っていても、離せないでいる。
ドキドキしている自分がバカらしいのに、代わりでもいいからと、少しの時間でもこの手に繋がれていたいと思ってしまう。
「高橋さんは、なにか願い事したの?」
ゆっくりと歩みを進めながら、気になってつい聞いてしまう。
「内緒だ」
「ケチ」
「叶ったら教えてやるよ」
高橋さんの願い事が叶いませんように…
お互い黙ったまましばらく歩くと、見慣れたマンションが見えてきた。
「あっ、左に見えるマンションに住んでるんだ」
「暗いな…家もまばらで、こんな危なっかしい道を歩いて帰るつもりだったのか?お前の彼氏は何も思わないのか⁈」