私の頬を指の背で撫でている顔は、あまりに艶めかしく凝視できず、目を逸らしながら早く退散するに限ると席を立った。

「じゃあ、ご馳走さま。奢って貰って悪いから来週は私が奢るね」

「気にするなら別の方法で返してくれてもいいんだぞ」

「わかった。考えてみる」

兎に角、このわけのわからない甘さを感じる雰囲気から逃げ出したい私は、帰る事しか考えていなかった。

「千花は鈍いって忘れてた。遠回しじゃ通じないなら正攻法で行くからな」

「えっ、なに?」

「なんでもない。帰るんじゃないのか?」

「あっ、そうだった。じゃ、またね…おやすみなさい」

気が焦って鞄も忘れてドアまで歩いて手に鞄がない事に気がつく。

あー、もう。

戻ろうと振り返ると、すぐ背後に私の鞄を持った高橋さんがいた。

「ほら、忘れ物。どうした?危なっかしいな…家まで送ってってやる」

「えっ、いーよ。家はすぐだし、高橋さんはまだ来たばかりで呑んでいるんでしょ。ゆっくりしてって」

今までにない高橋さんの優しさに、動揺しまくって、1秒でも早く1人になりたくて断ったのに…

「康太、こいつ送ってからまた来る」

私のセリフを無視した高橋さんは、鞄を渡してくれる様子もなく、先にお店を出てしまう。