グラスが空になりそうになるのに、一向に高橋さんが来る気配はなく、無意識に下唇を噛んで先週の失態を悔やんでしまうのだ。

彼氏がいるふりなんてしなければよかった。

高橋さんの気持ちを探るような事をしなければケンカなんてしなかったのに…

素直にそらくんは猫だと言っていれば、いつものように高橋さんは隣にいたかもしれない。

たらればを並べてもきりがなく、スマホに表示される時間を確認したら、そろそろ帰らなければならない時間になり、大きなため息を吐いていた。

その時、私の頭を優しく撫でる手とともに、隣にドサッと座る男性の声と、腕につけた時計が見えてドキッとする。

「辛気臭、男とケンカでもしたのか?」

「た、高橋さん?」

「なんだよ…俺が隣に来ちゃマズイのか?」

眉間にシワを寄せ不機嫌な声色を出しながら、コウ兄にいつものと合図を送っていた。

「いや、そんなことない」

思いっきり首を左右に振り、勢いよく言いきる私を見て、彼は口元にいつもの弧を描く。

悔しい…また、やられた。

一週間悩んでいたのが、今の一瞬で馬鹿らしくなる。

「からかって酷い。こっちは先週の事、悪かったなって思ってさっきまで悩んでいたのに、その口元、ムカつく」