プロポーズされたあの日、彼が何者なのか知らされた時の驚きは忘れられない。

この街に住んでいる人なら誰もが知る高橋コーポレーションは、不動産業に、リゾート業、あのUワールドのホテルも彼の会社が手掛けていた。

そのトップに立つ男こそ、高橋 斗真なのだ。

その高橋さんから、斗真さんと呼び方を変えるよう言われ、まだ、照れくささはあるけど、そのうち私も高橋さんになるのだからと、毎夜、練習させられた成果がやっと出てきた。

彼の心がわからくて、不安から、彼を待つだけの生活に耐えられなくなり、夜な夜な遊び歩き彼から逃げていたあの日々が懐かしく感じるほど、今は幸せだ。

だが、不満がないとは言えない。

婚約するのだからと会社も辞めさせられ、この家に住んでいるのに、ハウスキーパーがくるせいで家事をほとんどすることもなく、時間を持て余していることだ。

だから、今日こそは斗真さんに相談しようと思う。

彼が帰ってきて、いつ言おうとタイミングを伺うが、なかなか言い出せない。

彼と一緒の晩酌の時、お酒の力を借りることにした。

ハウスキーパーの来る日を、一日置きから、週2ぐらいにしてもらうこと、後は、何か習い事でもして、この囲われた生活から息抜きをしたくて、咄嗟に口実にしたのは、料理教室だった。