毎日、家に帰ると千花がいる。
「お帰りなさい」と笑顔で出迎えてくれる日が来るなんて想像できなく、絶望感を味わったあの日々、千花が離れて行くのではないかという不安で、落ち着かなく、仕事をなんとかこなしてる状況。
まさか自分が、女1人に振り回されているなんて知ったら、俺を知る奴らはきっと腹を抱えて笑うのだろう。
愛しい女の唇に、チュッと軽く唇を重ねる。
千花の抱く猫、そらが毎回邪魔で仕方ない。
数時間ぶりの婚約者とのスキンシップを深めるには、こいつ抜きで抱きしめたい。
かといて、無理やり俺が引き剥がすと千花がかわいそうだと怒るのが目に見えている。
だから、奴を抱いた千花ごと抱きしめれば、俺と目を合わせた奴は、鼻を鳴らして不満顔で退場していく。
その隙に、千花との濃厚なスキンシップを堪能していた。
すると、何か足の指に刃物で刺された痛みが走る。
「痛っ」
下を見れば、そらが俺の足の指を噛んでいるのだ。
「そら」
邪魔をされた怒りと痛みに叫ばずにはいられない。
すばしっこさで、人間が猫に勝てるはずはなく、あっという間にどこかに隠れてしまう。
まったく…俺に懐きもしない。