こんな事なら、ただの飲み仲間でいた方がマシだったと思うほど、心は荒れている。
そして今日、仕事帰りの私の遊びに付き合ってくれていた友人達は、お金もつき、毎回の私の無意味なハイテンションに付き合いきれなくなったようで、誰一人捕まらず、時間を持て余している。
帰りたくないな…と、スマホの時計を見る。
18時過ぎ…
家に帰ればそらくんが待っているとわかっているが、彼がいつ来るかもわからないと思うと、足が向かない。
そんな私の足が向かったのは、通い慣れた店【S】の前だった。
結局、ここか…なんてでごちりながら、木製のドアを開けた。
相変わらず聞こえるジャスの音色と共に、聞き覚えのある声にホッとする。
「いらっしゃい」
「コウ兄お腹空いた」
「来た早々、それかよ」
「なによ。ダメなの?」
「ダメじゃないけど、他に言うことないのか?」
「別に」
「まぁ、いいけど…」
そんなやり取りをしながら、無意識にいつも座っていた席に座っている。
「とりあえず、ビールでいいんだろう」
「うん」
そう返事しながら、誰もいない隣の席を眺めているのだ。
キンキンに冷えたグラスにビールを注いだコウ兄が、『ここに置いたぞ』と、私の前にグラスを置いた事に気がつかないほど、ボーと隣の席を眺めていたらしくコウ兄は苦笑している。