「先生!」
速水先生が振り返る。
「あれ、原さん?
どしたの?
何かあった?」
「先生、
やっぱりどこか痛くなったんでしょ。
歩き方がいつもと違いましたよ。」
「え、分かったの?
普通にしようと心掛けていたのに。」
「やっぱり。
あんまり無理しないでください。」
「と言ってもねぇ、
仕事だから。」
「じゃあ、」
私は、先生の押していた台車を代わりに押す。
「私がやります。」
「え、ちょ、だめよ!
原さんだって怪我してるじゃない!」
「私は左手だけです。
先生は全体です。
私がやるほうがいいです。」
「でも…!」
「先生…!
私は、
先生の我慢してる顔なんて、
見たくないです。」
「原さん…、」
「で、これどこに持っていくんですか?」
「それは、準備室1に…、」
「了解です。」
私はスタスタと台車と歩いていく。
その後を速水先生がちょこちょこと歩いてくる。
暫く歩いたら準備室1に着いた。
「よし。
で、これはどうするんです?」
「あ、台車から下ろしたら終わりよ。
台車も使うから置いておいて下さいって。」
「了解です。」
私はさっさと下ろす。
荷物はすぐに下ろし終えた。
途中先生が手伝おうとしてくれたけど制した。
「よし。
…出来ました。」
「あの、ありがとう。
手、大丈夫?」
「大丈夫ですよ、これぐらい。」
ほら、と手をぶらぶらさせる。
「ならいいけど、
その、あの言葉って、その、あの…、」
先生がもじもじしている。
「あの言葉?」
「その、
私の我慢してる顔、
見たくないって…。」
「あ、あー…」
確かに言った。
でも、言っていいのかな。
いや、今言わないとタイミング無くなるか?
私が悶々と考えていると先生が、
「その、私ね…、
原さんがかっこよく見えてしまうの。」
「かっこよく?」
先生がこくんと頷く。
「原さんが入学してから、
原さんだけが何故か目に入って、
見れば見るほどかっこよく見えてしまって…。
私、原さんの前だと変になってしまうの、
だから、あまり、関わらないで。
このままだと私…。」
その後は、言葉が続かない。
でも、
なんだ、
そうだったんだ。
じゃあ、悩むことなかったな。
「先生、続き聞きたい。
言って?」
私は先生に近寄って、
先生の頬に右手を添える。
先生はビクッとはしたが、
避けようとはしない。
あぁ、可愛いな。
「先生、言って?
先生が言ってくれたら、
私も、私の気持ち言うから。」
先生は少し涙目になっていて、
私の方が身長が高いから、
自然と上目遣いになっている。
「原さんの、気持ち?」
「そう。
だから言って、
お願い。」
先生は迷いながらも、
私の事を見てちゃんと言ってくれた。
「わ、私、
私、原さんが、好き…、…!」
私は、
その言葉を聞いた瞬間凄く嬉しくて、
軽く触れるキスをした。
「は、原さん…、」
先生は尚も混乱している。
が、
逃げるわけでもなく、
顔を赤くしていた。
そして、
もっとしたいような顔をしていた。
「先生、
私も、先生のこと好きだよ。
私もずっと、先生のこと気になってた。」
先生は、
元々大きい目を、また大きくして驚いた。
「へ、え、原さんが、私の事、好き…?」
先生は、
何か考えているのか、
顔を下に向ける。
「うん、そうだよ。
これからは何回だって言うよ。
私は、速水先生のことが好き。
好きだよ。大好き。」
そう言うと、
私は先生の顎を上に持ち上げ、
私と目線を合した。
そして、
私はまたキスをした。
今度は深い、
深いキス。
それが終わると、
私は先生の顔を見た。
目がとろんとしていて、すごく可愛い。
「先生、
卒業までは、
秘密ですよ。」