帰りのSHRも終わり、部活に行くというみのりと別れて昇降口に向かった。


みのりは調理部に入っている。といっても活動は月に一回あるかないからしいけど。



上履きからローファーに履き替えて外に出ると、校門前に長い行列を作っている女子たちが見えた。


放課後恒例。プリンスお見送りの行列だ。ほんと、毎日ご苦労なことで…




ブー、とポケットに入れていたスマホが震えた。



取り出して開くと、樹くんからライン。





【今度、よかったら二人で遊びにいかない?】





…樹くんとはなんだかんだでずっと連絡を取っていたけど。



何これ…二人でってことは…もしかして…




突然のデートの誘「おいっ!!」





グイッと乱暴に引っ張られた腕。グルンと反転する視界。



目の前には広い背中。






「誤解すんなよ」





私を校舎の影につれこんだ天王子が、私を睨みつけ低い声を出した。




「…は?」


「は?じゃねーよとぼけんなっ」




とぼけるも何も、わけが分からない。突然現れて、突然こんなところに引っ張り込まれて。



なんか怒ってるみたいだし。











「お前…今日の体育見てただろ」


「体育…?」



言われて思い出した。


そういえば今日、天王子の授業してるところ見てたんだった、みのりと。



私に気付いてた…ってことは、やっぱり目があったと思ったのは気のせいじゃなかったのかな。




「それが?」


「違うからな!」


「…はい?」


「あのとき俺がシュート外したのは逆に奇跡っつーか、ミラクルっつーか、たまたまだ、たまたま!」


「…はぁ…?」




何やら焦ったように捲し立てているけど、どうしよう。全く話が見えない。




「あの…天のう「言っとくけど俺は超絶サッカーうまいから!つーかスポーツは何でもできるんだけど?ほんと、顔もよくて頭もよくて運動神経抜群って、神様も罪なことするよな~」



私の話を全く聞こうとはせず、フッ…とアンニュイなため息をつく天王子。



うっとおしい。



何これ、自慢するためにわざわざ私のことつかまえたの?





「…どうでもいいけど早く帰れば?」



「は!?どーでもいいって何だよ!」



「だって女の子たち待ってるし」




ん、と校門を指さす。



校門の前では、女子たちが今か今かとプリンスのご登場を待ちわびていた。










「チッ…めんどくせーな」



それを見た天王子がうざったそうに舌打ちをする。



私に向きなおると、なぜかじっと見つめてきた。




「…え?なに…?」



なんか今日の天王子おかしくない?




「…今日行けねーから」



しばしの沈黙の後。重々しくそう言い放った天王子。




「…どこに?」


「お前んち!行けねーから!撮影!」




あぁ…そういうことか。


って、別にわざわざ言わなくてもいいのに。毎日来てるわけじゃないんだし。




「ふーん、そうなんだ。で?」


「で?って…」




なぜか天王子はワナワナ体を震わせると




「それだけだ!じゃーな!!!」




そう言い放ちクルリと私に背を向けた。



校舎の影から出た天王子にすかさず気付いた女子たちが「キャ~~~ッ!!」と歓声をあげる。



それに笑顔で応える天王子。



さっき「めんどくせーな」って舌打ちしてたのが嘘みたい。ほんと猫かぶり。二重人格。裏表男。




…それにしてもあいつ。



一体何が言いたかったんだろう…?

















次の、日曜日。




「ごめんっ電車が遅れて…待った?」



「いや?俺も今来たとこ」




大きなショッピングモールがある最寄り駅で、樹くんと待ち合わせた。




樹くんと会うのはあの合コン以来だ。




突然【二人で遊びにいかない?】って誘われたときは少しびっくりしたけど。デート!?とか思っちゃったりもしたけど。


でも別に樹くんからは特に告白とかされてるわけでもないし、そういう雰囲気も全然感じないし、何うぬぼれているんだ!と我に返った。




みのりに相談したら【つべこべ考えないでとにかく行け!!】って言われたし。





純粋に私も、友達として樹くんともっと仲良くなりたいし。






「じゃぁ行こっか」



「うん」




頷いて、先に歩き始めた樹くんの隣に並ぶ。




合コンのときは気づかなかったけど、けっこう背、高いんだなぁ。











それにしても、まさか樹くんから誘ってくれるとは…人見知りって言ってたのに。


少しは私に心開いてくれてると思っていいのかなぁ。




「どこか行きたい店ある?」



一段上のエスカレーターに乗った樹くんが振り向いた。




「あ…そうだな~。決まったお店はないけど、服とか見たいかも」


「オッケー。じゃ、ブラブラしようか」




ふっと優しく微笑む樹くん。



この落ち着きっぷり、タメの男子とはとても思えない…。



だってクラスの男子ってもっとバカだもん。教室でいつも騒いでるし、バスケットボールとか投げてるし。




それか…




私はタメの男子を、あと二人思い浮かべた。





水川…は、不健全エロ野郎だし、




天王子は一見大人びていて品も良く見えるけど、それは猫かぶりの作られた姿だし。





「どうかした?」




エスカレーターからおりて、また隣に並んで歩き始めた私を樹くんが不思議そうな顔で見下ろす。




「んー?樹くんってやっぱり大人っぽいなぁって思って」


「うそ、全然そんなことないよ」




その口調はやっぱりどこか大人びていた。












「わ、これ可愛い!」



思わず手に取ったスカートを見て、樹くんがふーん、と物珍しそうな声をあげた。



「一花ちゃんってこういうのが好きなんだ」



「え、なに、変かな?」



「全然?可愛いじゃん」




ふわっと笑う樹くん。



お、おお…





「…どうしたの?」




黙ってスカートを戻した私に樹くんは不思議そうな顔。




「え、いや、別に?」




言えない。


不意打ちの可愛いって言葉になんか照れちゃって☆とか絶対言えない。




可愛いのはあくまで“スカート”だから!照れる要素とかどっこにもないから!





「あっ、隣のお店も見ていいかな?」



「うん、もちろん」





なんだか気恥ずかしくてその店を出た私に、樹くんは快くついてきてくれた。












笑顔で私の買い物に付き合ってくれる樹くん。




彼女でもない女子の買い物に付き合うなんて正直かなりダルいんじゃないかと思うけど、樹くんは「一花ちゃんの行きたい店でいいから」と言ってくれる。



優しすぎる…!



私は感動していた。




どっかの誰かさんとは大違いだ。




どっかの誰かさんに無理やり買い物に付き合わされたときは、何件も強引に連れまわされて。



“さっさと歩けノロマ”とか暴言吐かれて。



荷物持ちさせられて!





まぁ“一緒に歩いてる俺が恥ずい”とか言ってワンピース買ってくれたけど…





「一花ちゃん?」



店頭にあったニットを手に取ったまま固まっている私を覗き込む樹くん。




「なにか考え事?」


「あっ…ううん、全然!」




しまった、何で今天王子とのデートのことなんか。



いや、そもそもあれもデートじゃないか!あいつは強引に“デート”って言ってたけど…


だってデートっていうのは付き合ってるとか好きあってるいい感じの男女が行うイベント…




「今誰の事考えてる?」




樹くんが私の手からニットを奪って、棚に戻した。




「…え?」




じ、と樹くんの落ち着いた瞳が私を見据える。




「…や、別に、ごめんね!」




人といるときにボーッと考え事するとか失礼だ。しっかしろ私!











それから何軒か服屋をまわって、


自分の買い物だけじゃ悪いので、樹くんが入りたいと言った腕時計のお店とか、メンズ向けの服屋さんとかも見て。



今はフードコートでお茶しているところ。



私がいちごとチョコのクレープとタピオカミルクティー、樹くんは甘いものがあまり得意ではないらしく、アイスコーヒー。




ていうか樹くん、特に欲しいものとかないのかなぁ。


この場所を指定してきたということは、何か買いたいものがあるのかと思ってた。その買い物に私に付き合ってほしいのかと。




「おいしい?クレープ」



アイスコーヒー片手に樹くんが聞く。



「あ、うん!おいしいよ!このタピオカミルクティーも!一口飲む?」


「え…」



私にタピオカミルクティーを突き付けられた樹くんが固まる。




ッハ!!



これって間接キスになっちゃうじゃん!そりゃ困るよ樹くんも!私と間接キスなんてしたくないもんね!?




「ごっごめん!」




慌ててタピオカミルクティーを引っ込めた。


その勢いのままズズーッと太めのストローでタピオカを流し込む。





何やってんの私!うわー恥ずかしい!


樹くんの落ち着いた雰囲気からか、一緒にいるとなんかリラックスしちゃってつい…!





猛烈なスピードでタピオカを吸い込む私を見て、樹くんがクスッと笑った。












「かわいいね」



「………は、」



「かわいいね、一花ちゃん」





……っちょっとぉぉぉぉぉ!!!




顔に熱がどんどん集まっていくのがわかった。




可愛いって、まさかタピオカミルクティーのことを言ってるんじゃないよね!?


わ、私のことを言ってる…んだよね!?




て、ていうか樹くんこういうこと言えちゃうキャラだったの!?人見知りなんじゃなかったの!?




マヌケにストローをくわえたまま、樹くんをまじまじ見つめる私に、樹くんがちょっと顔を赤くして顔を逸らした。



ッハ!私、見つめすぎた!?




「あ、あー、ご、ごめん!びっくりしちゃったよ~!

いつもブスとか言ってくる奴はいるけど、可愛いなんて言われたことなかったから!」



ハハハと笑い飛ばしながらなんだか悲しくなってきた。


樹くんが少し驚いたように顔をあげる。




「え…ブス?なんて言ってくる人いるの?」


「う、うんまぁ!普通ブスって思ってても直接言わないよね!?ほんと、性格悪い奴なんだよね~!」



ハハハと笑い飛ばしてミルクティーを飲もうとしたけど、いつのまにか底をついてたらしくズズッと音がした。





愛されプリンス½

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