お兄ちゃん元気ですか?

私は元気に過ごしています。

天国の居心地は良いものなのでしょうか。

ずっと働き詰めだったお兄ちゃんはやっと仕事から解放されて羽を伸ばされていることでしょう。

ゆっくり、ゆっくり休んでください。

最後に、夏帆は今。

ずごく幸せに溢れています。

だからお兄ちゃん。

心配しないでください。

大好きだよ。



「夏帆ー来たよー」そう言って家の中にグイグイと入って来る元気いっぱいの女の子。

「お邪魔しますくらい言え!」

そう言って家に入ってきたけど、自分は言わない。片手に私が好きなケーキの箱を持っている男。

「花ちゃんも大吾も強引過ぎない?」

今家に入ったかと思えば、リビングで勝手に紅茶やお皿にケーキを取り分け始めた。

いや、自由すぎるでしょ。

ここ、一応私の家なんだけど…

なんて言えるはずもなく、リビングの私は椅子に座った。

「ふぅー」

椅子に座ったり、立ったりするのも一苦労。

世の中の妊婦さんやお母さんには頭が下がりっぱなしですわ。


毎日の日課になっている日記に文字を走らせると、そっとお腹に触れてみる。

大きくなったお腹。

あと二カ月と少しでこの子に会える。

私にはそれが楽しみでしかなかった。

毎日このお腹の子は私に胎動で元気なことを知らせてくれる。

早く会いたい。

クスッとお腹に微笑んでみた。


私は17歳で妊娠した。そして、結婚もした。

世間体から言うと、早すぎる結婚、デキ婚。

だけど私はそれでもいいと思う。

すごく幸せだもん。

ピンポーン、家に響き渡る来客を知らせるベルに玄関に足を向かわせる。

「どっこいしょ」

いつからこんな言葉が口癖になってしまったんだろうか。

玄関扉の小さい穴から外を覗き込めば、見慣れたシルエットが二つ。

「はーい」

ガチャリとロックを外し、ドアを開ける


「かなり大きくなったね」

私の隣に座り、大きな口でケーキを頬張る花ちゃんは私のお腹にそっと手を置いた。

「お、俺も!!」

モグモグと口を動かしながら大吾もそっとお腹に手を置いてきた。

「あーあ、アタシもついに叔母さんかー」

「いや、別に叔母さんって訳じゃないよね?」

「やぁだ!アタシと夏帆の仲じゃーん」

口元に生クリームをベッチャリと付けて照れ始める花ちゃん。

「なら俺は叔父さんかー」

遂にはお腹に頬擦りをし始めた大吾に花ちゃんは浮気者って思いっきりビンタを喰らわせていた。

散々笑った後、花ちゃんがボソッと一言。

「なんか懐かしいね」

この感じ、そう言った。


「そうだね」

そう、つい一カ月前までは私たちは七ヶ月間連絡を取っていなかった。

正確には、私が連絡を絶ったから。

妊娠した事を花ちゃんや大吾、そして安浦に言う勇気がなかったから。

怖かった、友達を失うのが。

だけど、そんなことは無かった。

私が連絡をしなくたって、友達で、親友で、心から信頼できる人たち。

「そういえばヤス、もうそろそろ着くってさ」

スマホ画面を見せてくる大吾。

手元のスマホ画面を覗くと、

【あと10分で着く。大ちゃん俺のケーキ残しといてくれよ】

安浦はケーキ、と言っているが既にケーキは大吾と花ちゃんのお腹の中。


「大吾…安浦のケーキ…」

「ここにチョコあるだ!?これでなんとか…」

「なるか!」

急にバタバタとし始めた二人を他所に、再び来客を知らせるベルが鳴る。

「ちょ、夏帆出て!ここはアタシらでなんとかするから!!」

「夏帆、俺ら上手く誤魔化すから!!」

冷蔵庫を漁り始める始末。

二人を放って玄関の扉を開けると、そこにはやっぱり何も変わってない姿。

「おう」

片手を上げ、茶色い紙袋をぶら下げて玄関の前に立っている安浦の姿。

「いらっしゃい」

安浦を家の中へ入れると、あの二人が待っているリビングへと足を運んだ。


リビングに着くと、なぜか大吾も花ちゃんも地べたに正座して私たちを迎えてくれた。

「え?なにこれ」

困惑する安浦に、冷や汗ダラダラの大吾。
口角をピクつかせて苦笑いの花ちゃん。

「どういう状況?」

私の顔を見る安浦に苦笑いするしか出来なかった。


「この度は本当にすみませんでしたぁぁぁぁぁ」


「すみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


野球部かってくらい大きな声で謝罪の言葉を投げかける二人。

大吾に至っては、元野球少年なんだけど。

「大ちゃん?それは何に対する謝罪?」

大吾…

花ちゃん…