繭美までまんざらでもなさそうな返事をすると、山岸はお茶を吹いた。

「うわっ、汚っ」

 優輝はのけ反りながら、さっきのお返しとばかりに笑う。

 そんな子供のような二人に呆れた繭美は、布巾でテーブルを拭いていると――

「あ」

 そそくさと震える携帯電話を取り出し、布巾を山岸の顔へと放った。

「ぶわっ」

「もしもしー? あ、来た? 今出るね」

 客の訪問を匂わせる会話に、優輝は挙動不審になった。

「誰か来たの? 俺、帰――」

 立ち上がろうとした優輝は、未だ咳き込んでいる山岸に押さえられた。

「……ん?」

「ゲホッ、ゲホッ」

「それじゃ解らんわ」

 繭美は何も言わないまま、小走りで玄関へと向かう。妖しげな微笑みを残して――


「……何を企んでる?」

 尋ねるも、山岸はまだ息を整えてる最中だ。或いはわざと明かさないつもりか。しかし、優輝には察しがついていた。

 ほどなくして、客人が優輝の前に姿を現す。
 年の頃は二十代前半。艶やかな漆黒のロングヘアーに、白のワンピース。一見して誰もが美人と思うであろう、整った顔立ち。更には無駄の無いスリムなスタイル。
 まるでどこかの令嬢のようであり――

「コレ、あたしの友達」


 庶民丸出しな繭美にコレ呼ばわりされることなど許されないような、高貴な雰囲気を漂わせる女だ。