とある居酒屋――結婚式の二次会の会場である其処は、披露宴の盛り上がりをそのまま引き継いだ騒がしさが充満していた。

「次の店行くぞぉ!」

 ひとしきり騒ぎ、更にハシゴする流れになると、ポツポツと脱落者も現れる。

「俺、帰るわ」

 新郎にもたれ掛かって、そう告げた男――

「優輝!? 待てって! お前っ……」

 元来酒に弱く、これから向かうカラオケも得意でないが故に、夏目優輝は当然の如く離脱を決めた。
 しかし新郎――優輝とは大学からの付き合いになる男――山岸は、執拗に引き止めようとする。


「お前っ、女と話してねーじゃん」


 山岸が小声で耳打ちをしたそれが、彼を引き止める理由だ。

「いいよ、面倒くせぇ」



 夏目優輝。昔から彼は恋愛というものをしない男だった。故に友人からは心配され、何かと出会う機会を与えられてきたが、全ては無駄だった。

 これまで、幾度となく女性から交際を求められたこともあり、彼に魅力が無い訳ではない。それなりの身長、容姿に加え、運動神経もあり、第一印象では大概好印象を与えるし、性格に関しても特に問題は無い。

 しかし彼の頭には、恋愛や結婚願望という概念は無く、全ての女は追い返されていた。

 学生ならばその主張も「若いから」で片付けられるだろう。しかし彼はもう三十路の手前。家族や友人が見過ごせないのも当然な年頃だ。
 今回の二次会、そして三次会も「ある意味優輝の為に開いたようなものだ」と、主役だった筈の山岸が語る。