カラッとした風が窓から教室に流れ込んで、胸まである私の黒髪を揺らした。
───もう、すっかり夏の匂いがする。
「よろしくね、佐倉くん」
私、松永 芽唯(まつなが めい)。
高校2年生。
今日、私たちのクラスに転校生がやってきた。
席は窓際の一番後ろ。
そう、私の隣。
ベタだなぁと思いながらも、席に向かってゆっくり歩く転校生の佐倉 海登(さくら かいと)くんを目で追って、
席に座った佐倉くんに笑顔で声をかけた。
「隣の席だし、分からないこととかあったら何でも聞いて?」
明るい茶髪が、ふわりと揺れて。
窓から流れてくる風に乗って、佐倉くんの柑橘系の爽やかな香りが広がった。
───いい匂い。
香水かな?
男子でも、香水とかつけるんだ……。
佐倉くんもしかしてオシャレ男子??
クラスの男子なんて、みんな汗臭いイメージしかなかったのに。
「あ、教科書とかある?もしなかったら、」
「……いい、いらねぇ」
「え?」
「そういうのいいから。俺に構うな」
ピシャリ!と、心のドアを閉められたような言葉に、一瞬フリーズする。
何?このスカした転校生。