「……もうこんな時間か。 1日が経つのってはやいねぇ」
わりとおじいちゃんみたいなセリフを口にしたあと、木梨は私に笑いかけた。
「芹中と話すの、楽しい」
……世界が、がらり、と。
「また明日、話そうな。 昼休み、あいてる?」
「あいてる……っ!」
次の日の学校が楽しみになるなんて、人生初だ。
「やったー! 俺、明日が楽しみで仕方ないや。
あ、今日はどうやってここまで来たの?」
「お母さんと、車で……」
答えると、木梨は「よかった」と呟く。
「それなら、安全に帰れるな。 安心したよ。
また明日」
「うん、また明日」
そんなに心配しなくても大丈夫なのに。
木梨は、ずるい。
かっこよくて、優しくて、笑顔が似合って、ずるい。
彼は、商品棚にある金平糖のパックをひとつ、手のなかにおさめると、満足したように微笑んでうなずき、レジへと向かった。
その後ろ姿をながめながら、あぁ、やっぱり好きだなと、心のなかでささやいた。