いつでもきみのそばに



俺は涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになりながら紙袋に手を伸ばした。

あけてみるとそこにはサッカーボールが入っていた。

そしてそこにも手紙がついていた。





おせっかいでごめんね。
でもね、わたしやっぱり大ちゃんにサッカーをもう一度やってほしかったの。

わたしのせいでやめちゃったことがどうしても悔しかった。

大ちゃん小さいころからいってたでしょ?

「僕の夢はサッカー選手になることだ」って。

小さいころから陰でずっと努力してきたの知ってるよ。
大ちゃんがサッカー大好きってことも。

大ちゃんの夢はわたしの夢でもあったの。



大ちゃん。今からでも遅くないよ。


大ちゃんは真っ白なんだから。

これからなりたい自分に、なりたいように描くことができる。


わたしは、ずっと見守ってるよ。


わたしは大ちゃんの太陽だから。

大ちゃんがつらいときは道を照らしてあげるからね。


ずっと、大ちゃんを応援してます。







あれだけ泣いたはずなのに、溢れる涙をとめることができなかった。

サッカーボールを抱きしめながら声が枯れるくらい泣いた。



なんで俺は意地をはってたんだろう。

舞はずっと俺のこと応援してくれていたのに。

文化祭のときだって俺のために泣いてくれた。

舞が生きているうちにサッカーをしている姿をみせてあげたかった。

俺がへたくそなときからずっと近くで見ててくれてて、練習をみてるだけなんてつまらなかっただろうににこにこしながら頑張れって応援してくれた。


舞のためにやめたなんて、そんなの舞に失礼だった。

舞はそんなこと一度だって望んでいないのに。



俺はいてもたってもいられなくなってサッカーボールを手に外にかけだした。




「集合!」


「今日もおつかれさま。明日は久々に休みにするからどっか遊びにいってこい」


「え、ほんとですか!?」


「よっしゃー」


「ただし、ケガはするなよ。それと補導とかはされないように」


「きをつけまーす」


「じゃあ、解散」


「ありがとうございました」


生徒たちが嬉しそうに去っていく姿をみて高校時代を思い出す。


俺は25歳になった。

そしていま教師をやっている。



舞が消えてしまった次の日、俺はサッカー部に入部した。


でもやっぱり道はそう簡単ではなかった。

ブランクが3年あったうえに、小中学生とはレベルがやっぱ違く、みんな上手だった。


最後の大会にはでれたものの、その前はベンチばっかりで大会にでれたのなんてほんの数分間とかだけで。

なので当たり前のようにプロなんていけるわけもなかった。


でもやってわかったことがあった。


やっぱり俺はサッカーが好きなんだって。


どんなにつらい練習でも、試合にでれなくても、俺は楽しかった。




部活引退後、進路を決めるとき俺は迷わず教師の道にいくことを決めた。


もともと勉強は得意だったし、人に教えるのは好きだった。


教師になれば部活の顧問でサッカーを教えられると思ったし。



それに・・舞がいじめられていたときクラスメイトも担任も見て見ぬふりをした。


少しでも舞のそばにいてくれる人がいたら、担任が気にかけてくれていたら、未来は違っていたと思うから。


だから俺はそんなことがないように、いじめが起きないように、舞の想いを晴らすためにも教師になりたかった。



舞、見てる?


舞がいなくなってからもう10年の月日がたったよ。

長いようであっという間だった。



なあ、舞。

あの半年間は俺と舞の想いが繋がってうまれた奇跡、だったんだよな。



忘れちゃうことも多くなったけれど、今でもあの半年間は鮮明に覚えてるよ。


この先、何があっても一生忘れることがないと思う。



ありがとう。

俺の前に姿をあらわしてくれて。

俺に生きる意味を教えてくれて。




「せんせー、いつまでそこにいるんですかー?部室の鍵どうしたらいいですかー?」


「ああ、いまいく」


今はここの生徒たちに明るい未来があるように、苦しむ子がいないように、俺はこの生徒たちを必死に守っていく。



そして舞が生きたかったこの世界で、舞の分まで生きるから。




「大ちゃんはね、真っ白」


「なんで?」


「何色にでもなれるから」


「・・・は?」


「白ってこれから何色にでもなれるでしょ?いろんな色を重ねることができるし、なりたい色になることができる。まだまだこれからってことだよ」


「そんなこといったら舞だって」


「ううん。わたし太陽でいい。大ちゃんだけの太陽。これからもずっと大ちゃんを照らし続けていける、それでいいの」


いつもこの夢をみるとここで舞が消えて俺は目が覚めた。


でもこの会話にはまだ続きがあった。