いつでもきみのそばに



気づいたら俺は一段高い段差をあがっていた。


なんではじめからこうしなかったんだろう。

3年前に舞が死んでしまったときからこうすればよかったのに。

どこかで死ぬことが怖いと思っていた。

でも今は違う。舞と一緒にいれるなら俺は死んでもかまわない。


肩の力が抜けて一歩前に踏み出そうとしたとき


「大輔!!」


ガタンと扉の閉まる音と一緒に光の叫ぶ声がきこえた。


「とめないでくれ」


俺は後ろを振り返ることなくそう口にした。



「大輔が死ぬことを菊池さんがのぞんでるとおもうの?」


「光にはわかんないよ」


「わかるよ。菊池さんが姿をあらわしてまで大輔に伝えたかったこと。

大輔に前を向いて生きてほしかったんだよ。前向きに明るく生きてほしかったんだよ。なんでそんな簡単なことがわからないんだよ」


「俺は・・俺は・・」


光がいつの間にか俺の後ろまできていて俺の腕をひっぱった。


「大輔、泣いていいんだよ」


その一言で俺は崩れ落ちた。


「うわあああああああ」


舞が消えてしまうことがこんなにつらいことだと思わなかった。


心のどこかでこうなってしまうことなんて予想できてたのに。



舞が俺の前に姿をあらわしたのが正解だったのかわからないといったとき否定できなかった。



この約半年間舞はたしかに存在した。

舞と高校生活を送って、一緒に遊びにもたくさんいったし舞の誕生日だってお祝いした。

文化祭で一緒に回って懐かしい思い出を振り返ることができたし、体育祭のときは久々に必死になって練習した。


つらいときもあったけれど楽しいことのほうが多かった。笑うことも増えた。



どれもこれも全部、舞が俺の前に現れてくれたおかげだから。





「光、ありがとな」


泣いている間ずっと隣にいてくれた光。


「嬉しかった、とめてくれて」


「俺のほうこそ。思い直してくれてよかった。実は、俺菊池さんと結構前から話してたんだ」


「え?」


「はじめは、俺と大輔がたまに話してるのをみるようになったからそれで大ちゃんのことよろしくって頼まれてたんだ」


「舞がそんなこと・・」


「でも俺、そういう幽霊っていうのかな。霊感が少し強くてさ。なんとなく菊池さんからそういうオーラを感じてたんだ」


たしかにはじめて話したときから光は舞のことをオーラが違うっていってた。



「それで俺聞いてみたんだ。最後まで本当のことは教えてくれなかったけれど。でもこういったんだ」

「いつかわたしは大ちゃんの前から消えるって」


「っ」


「それに大輔への気持ちを聞いたら泣きだしちゃって。それで俺確信した。あのとき菊池さんは大輔のことすきだと思うよっていったのは、結ばれてほしいなって思ったから。でも、こんなに早く菊池さんが消えちゃうのは俺想像してなくて。ごめん」


光のせいじゃない。


光は単純に俺と舞のことをずっと見守っててくれたんだ。


「それと、もし消えたときに大ちゃんが死のうとしたらとめてほしいって頼まれた。でも、俺は菊池さんに頼まれたからとめたんじゃないよ。俺も大輔に生きててほしいって思ったから」


あそこで死ぬことは、俺の自己満足にすぎなかった。

ただ現実から目をそらしたかっただけで。



こんなにも俺のことを思ってくれていた舞と光。


それに気づかないで死のうとするなんて、なんて俺は馬鹿なんだろう。


「迷ったっていいんだよ。立ち止まったって。後悔のない人生なんてないんだから。でも、簡単に死を選んでほしくない。大輔にはまだ明るい未来があるんだから」


光の言葉をきいて思い出した。

舞が俺のことを真っ白っていってくれたことを。


「俺がんばるよ」


上を見上げると太陽が輝いていて、舞が微笑んでいるようにみえた。



「ピンポーン」


「はーい、あら大輔くん?」


「突然すいません。舞にお線香あげたくて。ずっとこれなくてすいません」


舞の葬式以来現実を受け止められなかった俺は舞にお線香をあげたことがなかった。

でもこうして一歩前に進むことができるのも舞のおかげだ。



「大輔くん、ありがとね。あの子も喜ぶわ」


おばさんは少し目を潤ませていたけど嬉しそうだった。


喧嘩して舞の家にきたときには仏壇がなかったけれど今日は存在した。



「舞、遅くなってごめん。俺頑張るから。見守っててな」




「不思議なんだけどね、最近まであの子がこの家にいたような気がするの」


お線香をあげおえておばさんが淹れてくれたお茶を飲んでるときにおばさんがそう口にした。


「え?」


「おかしいでしょ?もう3年もたつのに」


「いえ。俺もそんな気がしてました。それに今だって舞はずっと近くで見ててくれてると思います」


半年間舞がいたという記憶はみんなから消えてしまったらしい。


あのあと教室に戻ると舞が座っていた席はなくなっていた。


それに対して誰もなにも不審に思っている様子はなく、いつも通りだった。



牧瀬と三浦も。


きっと舞ははじめから自分の運命がわかってたから友達を作ろうとしなかったんだろう。


でも、遠足の日、舞には友達ができた。


きっと舞の中で葛藤があったんだと思う。


楽しい思い出ができてしまったら。

牧瀬と三浦は記憶自体がなくなってしまうから関係ないけれど舞は違う。


きっと余計消えてしまうことがつらくなるんだろう。


それでも、舞は最後まで牧瀬と三浦と友達でいることを選んだ。