…あ、この声覚えてる。

私のことを唯一認めてくれた子。

凄いって、褒めてくれた子。

でも、名前だけが思い出せない。

必死に探しても、頭の中からその記憶だけ抜け落ちたように消えてしまっている。

待って、待ってよ、貴女は誰…?

フル回転させても出てこなかった記憶はぼんやりとした輪郭のまま私の中に居座った。

「うっ、はぁっ…」

「俺が保健室に連れていく。連絡してくれ。」

「はい!亜蓮先輩、よろしくお願いします!」

「…大丈夫か、葉月?今から移動するからな…」

ふわり、と体が宙に浮いたと思った瞬間、椿山先輩の声の響きを耳に残したまま、私の意識は暗転した。