そのため日本の有名大学に入学して、夕映は驚くことになる。
 夕映の大学に斎が居たのだ。
 てっきりアメリカの大学に入学すると思っていたので、大学の入学式の新入生代表の言葉で登壇する彼を見たときは、思わず声をあげそうになってしまった。



 学部は違うものの、斎の人気はすごかった。
九条家の跡取り息子というだけでも目立つのに、あのモデル並みの容姿だ。彼が行くところはいつも人だかりが出来ていた。
 けれど、それも少しの間の出来事だった。

 すぐに、斎は本性を出してしまい、言い寄ってくる女の子達には「うるさい。話す事なんてない。」と一喝したり、媚を売ってくる友人には、「おまえの家とは取引しない。」など、かなり強烈に対応したようで、あっという間に彼の周りは静かになった。

 その代わり、斎が信頼できると思った人だけが残ったようで、斎も穏やかに大学生生活を過ごしているようだった。



 そして、夕映と斎は今まで以上に急接近する事になる。
 

 「おまえもテニス部入るんだな。」
 「うん。一緒のチームになるのは初めてだね。」
 「あぁ……。よろしく。」
 「えぇ。こちらこそ。いろいろ教えてね………もちろん、優しくね。」
 「それはどうかな?」



 斎と夕映は、大学のテニス部に入ったのだ。全国でもトップクラスのテニス部で、レベルも高いため、斎が目的の遊び半分で入るような生徒はいなかった。
 
 そこで約3年ぶりの再会を果たしたのだった。

  お互いに少し照れくさくなりながらも、冗談を言い合い、そして握手を交わした。

 彼の手は以前、頭を撫でられた時よりも大きく、そしてゴツゴツと骨っぽい男の人の手になっており、夕映は思わずドキッとしてしまった。

 
 考えてみれば、彼とほとんど会う事はなく、合わせても10回も満たない関係だった。
 それなのに、夕映ととってはどんな友達よりも大切な人なのだから不思議だった。

 そんな斎と、毎日のように顔を会わせるのだ。そう思うと、これからの大学生活が楽しみだけれど、緊張してしまいそうだな、とも思った。

 何はともあれ、今まで話せなかった分、しっかり彼と話しをしよう。



 そう心に決めたのだった。