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 小学生の頃はパーティーのたびに二人で抜け出しては、朗読会や英語の勉強会、そして好きな本を教えたあった。

 けれど、中学生以上になるとそれは難しくなった。斎の周りにはいつも年頃の女の子たちが集まっていたのだ。斎は不機嫌そうにしながらも、仕事や九条家の役割として、そこから離れることも出来なく、パーティーで会っても挨拶程度の関係になった。九条家は誰もが知っている大企業で、夕映のうちとは比べ物にならないのだ。
 学校も違う二人の接点ないと思われた。

 けれど、彼と会うことが出来る機会が年に数回あった。
 それは部活のテニスの試合だった。

 パーティーでどこかの御令嬢が「九条斎様はテニスをやられているそうよ。」という話を耳にしており、夕映も真似をしてテニス部に入部したのだ。
 予想通り斎もテニス部に入っていた。しかも、1年からレギュラーに選ばれて試合でも活躍していたのだ。
 その試合を見るのが、中学の頃の唯一の楽しみだった。

 夕映は女子校に入っていたため男子の試合の日は休み。そのため、こっそり斎の試合を見に行ってたのだ。




 3年間は斎とはほとんど話せず、夕映が一方的に応援しているだけだった。けれど、1度だけ斎と話した機会があったのだ。


 それは斎が県大会で個人戦優勝を果たした後だった。夕映は、試合の余韻に浸っているうちに、会場からは人がほとんどいなくなってしまう時間までボーッとコートを見つめていた。

 彼のテニスプレイは激しいながらも繊細で、とても綺麗だった。周りの女生徒たちもうっとりとした眼差しで見つめているのがわかった。そんな姿を見れて、夕映は「かっこいいな。」と改めて憧れの人だと思っていた。

 夕暮れで赤く染まった試合会場の出口付近を一人で歩いていた時だった。


 「おいっ!夕映!………夕映なんだろ?」
 「え………。」

 
 自分を呼ぶ懐かしい声が聞こえた。
 それは、ずっと聞きたくて、話がしたかった人の声だった。