「じゃ、じゃあ!私が海外の人のお話を日本語に訳すよ!」
 「え………。」
 「私が翻訳する人になったら、斎が見つけてきた本を日本語にして、私がみんなに読んでもらえる出来るでしょ?」
 「…………。」


 我ながら良い考えだと思い、彼に向かって堂々と話をしたけれど、当の斎はポカンとした表情で夕映を見つめていた。
 斎の事だ。「お前に出来るのか?」と言ってくるだろうな、と思っていた。それでも、知らない物語を日本語に訳す仕事。夕映は、それにすごく興味が湧いていた。彼になんと言われてもやってみたいと思った。


 けれど、彼の反応は夕映の予想を反するものだった。

 斎は、今までに見たことがないぐらいにやさしく微笑んだ。頬をほんのり赤く染めて、少し潤んでいるように見える瞳を、先程以上にキラキラと耀かせ、満面の笑みで夕映を見つめていた。



 「夕映なら出来るだろうな。楽しみにしてる。」


 そう言いながら、夕映の頭を優しく撫でてくれた。
 同じ年の男の子に頭を撫でられて安心するなんて、可笑しいのかもしれない。けれど、夕映は彼の手の感触を感じて、ポカポカとした日だまりにいるような気分になった。
 そして、そんな年相応の純粋な斎の笑顔をもっと見たいと思った。
 初恋の人の笑顔が見たい。夢を叶えてあげたい。
 この時から、夕映の夢は決意となった。





 「……………あっ。」


 ぱっちりと目を開く。
 見えるのはぼんやりと写る自宅の白い天井だった。ぼんやりしているのは、自分が泣いているからだとわかり、夕映は目を擦った。

 懐かしい夢だった。
 途中から夢の中だとわかっていても、涙が出てしまいそうになった。


 「私はあの日から夢を見てたんだ。………翻訳家になるのも、斎と過ごす生活を。」


 言葉にしてしまえば、すぐにわかることだった。
 けれど、言葉にしてしまえば我慢できなくなる。それがわかっていて、夕映は自分でも気づかないうちに、自分自身でセーブしていたのだろう。


 けれど、それも限界だった。




 「私、斎が好き。……ずっと、ずっと大好きなんだ………。」



 ベットに横になったまま、自分の顔を隠すよう手で覆いながら、夕映は苦し気に気持ちを吐き出した。



 目を瞑ればいつでも思い出す、彼の事を想いながら。