「斎こそどうしたの?………私が帰ってくるまで待ってるなんて。何か用事でもあった?それとも、前回の事でも………。」
 「………夕映。」
 「………何?」
 「何で俺の方を見ないんだよ。こっち向け。」


 夕映は顔を見られたくない一心で言葉を紡ぎ続けた。けれど、そんな考えなど彼にはお見通しだった。察しがいい彼は、きっと饒舌になった夕映の様子がおかしいとすぐに感じ取ったのだろう。


 「………この間ケンカしたから顔見たくないだけ。」
 「嘘だな。」
 「本当だよ。……それに、今、斎と会って話す事なんてないよ。」
 「俺は会いたかったよ。」
 「………おやすみなさい。」


 彼の言葉は率直だ。
 だからこそ、自分の中に溶けていくように馴染んで、そして嬉しくなってしまう。

 けれど、今は彼に泣いた顔を見られたくない。そして、何より理由を聞かれたくなかった。
 彼の横を素通りしてしまおうと歩くけれど、やはり斎はそう簡単には帰してはくれなかった。
 彼の手が、夕映の腕に伸びて引き留められたのだ。


 「ちょっと待て。」
 「離してっ!」
 「おまえ、泣いてるだろ。何かあったのか?」
 「……泣いてないよ。何にもないから………。」
 「おまえ、さっきまで依央と一緒にいただろ?」
 「え………。」


 斎の言葉に、夕映は思わず固まってしまった。
 どうして、それを知っているのか。 
 どこで見られていたのだろう。もしかして、公園で。一瞬の内に1日を振り返ってしまう。

 黙ったままの夕映を見て、斎はため息をついた後、話を続けた。