落ち着きを取り戻してから、九条家のお屋敷を出ようとすると、「夕映様、お帰りですか?」と、後ろから優しく声が聞こえてきた。
泣いて目が赤くなっているので、誰とも会いたくなかったけれど、声を掛けられたのに無視するわけにもいかずに後ろを向いた。それに、声の主ならば、きっと大丈夫だ。そう思い、夕映は返事をした。
「神楽さん、忙しいのにいろいろありがとうございました。」
「いえいえ。久しぶりに夕映様とお会いできて、私も嬉しかったです。お帰りは一人ですか?」
「ええ。」
「そうですか。では、私がご自宅まで送ります。」
「え、そんな、大丈夫です!一人で帰れますよ。神楽さんはお忙しいでしょ。」
「九条夫妻から先ほどお電話がありまして、そのときに夕映様が来ていると伝えましたら、しっかりとおもてなしするようにと言われたので。最後まで、お手伝いをさせていただかないと、私がお叱りを受けてしまいます。」
「………神楽さんったら………ずるいです。そんな事を言われましたらお願いするしか出来ません。」
「よかったです。今、車を持ってきますので、こちらでお待ちください。」
そういうと、にっこりと笑って神楽は外へと歩いて行ってしまった。
神楽の優しさに感謝しながらも、屋敷の中にいたら彼にまた会ってしまいそうだったので、夕映も外に出て待つことにした。
しばらくすると、高級自動車が夕映の前に停まった。
神楽にドアを開けてもらい、エスコートされながら中に入る。神楽に住所を伝えると、ゆっくりと車が動き出した。