案の定、風呂場の前でその足音が止まった。
夕映は、驚きその場に固まってしまった。急な事があると、何が最善な対応なのかわからなくなってしまうものだな、と何故が頭では第三者のような考えが浮かんでいた。
そして、ガチャと豪華なドアノブが動き、ドアがゆっくりと開いた。
「あっ………あの、神楽さんっ!まだ、私入ってますっっ!」
夕映は顔を真っ赤にさせながらそう良いながら、ドアの先を見つめた。
すると、ドアから姿を表したのは小柄な神楽ではなく、長身の男だった。
「い、斎………。」
「何だよ。もう上がってきたのか。てか、何で俺を神楽と間違えてんだ。」
「な、なっ………。」
驚いている夕映をよそに、斎が脱衣所にズカズカと入ってくる。夕映は、あまりの事に声も出せずに、目を大きくしたまま彼を見ることしか出来なかった。
「いつもなら、風呂入ってるの長いだろ?なんで………って、おまえ何やってんだよ。」
「な、何やってるじゃないでしょ!?なんで人が着替えてる所に入ってきてるの?」
やっと抗議の声を上げた夕映だったが、それの言葉を聞いても斎は脱衣場から出るどころか、顔をニヤつかせるだけだった。
「なんだよ……おまえ、もしかして恥ずかしがってっんのか?」
「違うわよ。あなたのデリカシーのなさに驚いてるのっ!」
「………俺はおまえの事好きだから、一緒に風呂に入りたかっただけだ。」
「付き合ってないでしょ?好きなだけで、お風呂に一緒に入るはずないじゃない。」
会話を交わしながらも、彼はゆっくりと夕映の元に近づいてくる。
ほぼ全裸だった夕映は、なんとか大判のタオルで前を隠すしか出来ていない。夕映はあたふたしているうちに、目の前に斎が立った。
そして、くくくっと得意気に笑うとゆっくりと顔を近づけてくる。
「おまえ、緊張してんの?」
「……それは………こっちは裸なんだから、当たり前じゃない。」
「ふーん。……じゃあ、俺も脱げばいいのか?」
「違っ……!」
反論しようとするが、斎の顔が耳元に寄り、低音の色っぽい声で囁いたのだ。