それが彼を避けたように感じられてしまうだろうかと、咄嗟に思いすぐに彼の方を向き直した。
「あっ………その、汗かいてるから………触られるの恥ずかしいかなぁーって。」
彼の顔を見るのが恥ずかしくなり、視線をずらしたまま斎にそう伝える。
彼が伸ばした手が、彼の元に戻っていく。その指先だけを夕映は見つめてしまう。
「じゃあ、汗をかいてなければ、おまえに触れてもいいって事だよな?」
「そ、それは………。」
「今の言葉は、本心だろ?もう、素直になればいいのにな。」
「………だって……。」
「……何か理由があるのか?」
「…………。」
ここで彼に昔の事を聞いてしまえば、理由がわかるのだろう。
けれど、彼の答えによっては、斎への気持ちも変わってしまいそうだった。
それが怖くて仕方がなかった。
1度の間違いなのだから、許してしまえば良いことなのかもしれない。けれど、それが出きるのだろうか。そんな風にも思ってしまう。
彼の事を信じたい。
けれど、答えが怖い。
それが、戸惑いになっていた。
だが、ずっと気持ちを黙っているわけにはいかない。
そう思って、口を開いた時だった。
テニスコートの脇に置いていた彼のバックから、スマホが鳴った。
その音を耳にした瞬間、夕映は口を閉じてしまった。
斎は電話など無視して話せ、という視線を向けてきたが、夕映は首を横に振った。
「……大丈夫だから、電話に出て。」
「……わかった。神楽に言ってシャワーを浴びてろ。帰りは送ってく。」
彼の言葉に頷いて、夕映は斎のお屋敷の玄関へと向かった。
彼が誰かと話している声を聞きながら、夕映は小さくため息を落としたのだった。