「よしっ!俺の勝ちな。」
 「んーーー……悔しいぃ!」
 「大学の頃から勝ったことなかったんだから、当たり前だろ。」
 「そうなんだけど、斎もいまでは毎日テニスしてないでしょ?だから、いけると思ったのに………。」
 「ジムで少しやってるからな。週3ぐらいは。」
 「…………ずるい………。」


 大学の頃より確実に体力が落ちた夕映の体は悲鳴を上げており、夕映はテニスコートに座り込んでしまう。砂の感触が足に伝わり、少し痛かったけれど、それどころではなかった。荒い呼吸を繰り返し、なんとか体を起こしていた。


 彼の練習をし始めると、途中から彼は本気になってしまうのだ。そして、彼に1回でもいいから勝ちたいと思ってしまう夕映はそれにのり、練習試合をする。
 すると、彼の華麗なプレイに翻弄され、次々とポイントを決められてしまい、夕映はただボールを追うことに必死になってしまうのだ。
 それでも、当時は少しずつ点を入れられるようになってきた夕映は彼との試合が楽しかったのだけれど、今回はそうもいかずに惨敗だった。


 悔しさもあった。そして、息苦しく辛かった。

 けれど、夕映の大好きな彼のテニスプレイを間近で見れた事はとても嬉しくかったのだ。体はヘトヘトになっていたけれど、気持ちはとても満足していたのだ。その証拠に、口元は緩んでいる。


 「なに笑ってんだ?」
 「あ………ありがとう。」


 彼に腕を掴まれ、優しく体を支えられながら夕映は体を起こした。
 脚についた砂を払い、彼の方を向く。斎はほとんど呼吸を乱してはいない。日頃鍛えているのが本当だとわかる。


 「……久しぶりに斎とテニスが出来て楽しかったから。」
 「そうか。俺もだよ。」
 「本当に?私とテニスしても練習にならないでしょ?」
 「……おまえは上手いから練習にもなるし、俺は楽しいし……嬉しいよ。」


 汗をかいて肌に張り付いていた夕映の髪を、斎がすいてくれる。
 そのまま頬に触れてくる彼の指の感触を感じ、夕映はとっさに顔を背けた。汗をかいている自分の顔に触れられるのが、嫌だったのだ。