「よし、着いたぞ。」
 「えっ………ここって。」
 「俺の実家。懐かしいだろ。」
 「それはそうだけど………。」


 目の前に見えるのは、とても大きく豪華な家だった。周りの家の十数倍も土地が広く、家は外国お城のようだった。庭も広く、プールやテニスコート、屋根付きベンチなどもある。
 大学の頃は、彼は実家に住んでいた。彼の性格からして一人暮らしをしそうだったけれど、実家からかよっていたのだ。
 当時の彼に理由を聞くと、「父親から仕事で学ぶことが多いからな。家にいた方が話す時間も多いだろ。」と言われたのだ。その考え方は、彼が仕事に対して真面目に取り組んでいるのがわかるもので、夕映は彼の姿勢がとてもかっこよく見えた。

 そのため、付き合っていた頃によく遊びに来ていたのだ。
 斎の両親は、パーティーでよく見ていた夕映が恋人になった事を喜び歓迎してくれていた。
 そのため、一緒に食事をする事も多かったのだ。

 けれど、別れてからはもちろん、この家に来ることはなかった。夕映が父親に誘われても、パーティーに行きたくない理由が、ここにもあったのだ。

 車から降りつつも、少し気まずい様子で斎の実家の建物を見つめた。


 「俺の両親なら海外出張中でどっちもいないぞ。」
 「えっ。」
 「どうせ、会ったどうしようとか考えてたんだろ。安心しとけ。」
 「………それを早く言ってよ。」
 「言ったら、目的地がわかるだろ。……ほら、行くぞ。」


 斎はそう言うと、さっさと前を歩いて行ってしまう。
 彼のさりげない気遣いが嬉しくて、夕映は口元を緩めながら、彼の後ろを小走りで追った。


 すると、玄関のドアが開き、黒いスーツを着た男性が立っていた。