せっかく笑い声まで聞こえてきたのに、と夕映はガッカリしながらも、言い訳を言うしかなかった。


 「依央くんがね、飲み会で途中からいなくなった私を心配してくれてたみたいで。それで、会ったときに声をかけてくれて。近くのコーヒーショップで会ったんだけど、そこのコーヒーがお気に入りみたいで!あ、私は………。」
 『で、お茶して何してんだよ。』
 「えっと……本の話をしてるよ。私が好きな本を教えたら気に入ってくれたんだ。」
 『………本の話ね。』


 独り言を呟くように、そういうと少しの間、斎は黙ってしまった。夕映は、必死にフォローをするけれど、電話の向こうの彼はドンドン不機嫌になっているようだった。


 「ねぇ、斎。明日のお昼は時間ある?そこのキーマカレーがとっても美味しいの。斎にも食べてほしいな。」
 『………昼間なら少し時間つくってやれる。』
 「本当?よかった。コーヒーもおいしいよ。」
 『おまえが好きなのは?』
 「え?」
 『コーヒーは依央が好きなんだろ。お前の好きな飲み物は?』
 「ミントココアだけど……。」
 『じゃあ、それにする。』
 「……わかった。」


 きっと目の前に彼がいたら「何、ニヤニヤしてるんだよ。」と言われているぐらい、夕映の頬は緩んでしまっていた。
 斎は、夕映の好きなものを知ろうとしてくれた。それは昔からそうだった。

 自分の好きなものよりも、夕映の好きなものを共有してくれようとするのだ。
 苦手だったり、好きではなかったりする事もあるけれど、「俺は好きじゃないけど、おまえが好きならいいだろ。」と言って、まずは知ろうとしてくれる。
 そんな所が彼の素敵な所だと改めて夕映は思った。


 『おまえ、笑ってるだろ。』
 「え?そんなことないよ。」
 『絶対ニヤついてるな。』
 「なんでー?」
 『俺と会えるのが嬉しいからだろ。』
 「……そういう事にしておこうかな。」


 心が温まったまま、夕映は彼との短い時間の会話を楽しんだ。
 そして、次の日のデートを少しだけ、楽しみになっていた。