いつもより顔を赤くしながら、少し顔を緊張させたまま夕映を真剣に見つめるので、夕映も視線を合わせたまま依央を見る。

 彼の言葉の続きを待っていると、彼は言葉をなかなか発っそうとしないので、夕映は心配になってしまう。

 けれど、夕映が声を掛けようとした時にやっと彼からの返事が返ってきた。


 「好き……な本を教えてください!」
 「……え……。」
 「せ、先輩が教えてくれた本はどれも面白いものばっかりだったので、そのー……… また、読んでみたいなーと思って。」
 「そうなの?嬉しい!あ、今持ってるこの本は斎が教えてくれたんだけど、すっごく面白いよ。」
 「斎先輩、ですか……。」
 「うん。あ、シリーズものだから、今度貸すよ?」


 先程までの笑顔はなく、何故か元気がなくなっている彼にそう言うと、少しだけいつもより微笑みが戻ってきていた。


 「また、会ってくれるんですか?」
 「うん!もちろん。」
 「………夕映先輩、ありがとうございます。」

 
 にっこりと微笑んだ依央と、その後連絡先を交換して、その日は別れた。


 一人では考え込んでしまうばかりだったけれど、こうやって別の話をする事で少しの間忘れられる。
 そうやって、1度リセットして考えるのはいい事なのかもしれない。

 夕映は、楽しかった時間を思い出し、会いに来てくれた依央に感謝をしながら、春の温かい夕日を浴びながら家に帰ったのだった。