そう言って、車のドアノブを掴むと、後ろから斎にすっぽりと抱きしめられてしまう。
 肩と首に彼の吐息と髪が触れ、くすぐったくなる。斎に触れられている所全てが、熱くなってくる。


 「おまえ、それはずるいだろ。」
 「え………。」


 彼が小さい声で何かを言ったが、夕映はそこ声はうまく聞き取れなかった。


 「……また、おまえに好きって言わせてやる。恋人同士だった時にみたいに、毎日「斎が好き。」って言わせてやるよ。」
 「なっ………。」
 「おまえに恋人になってもらうのに、デートに誘うのはいいんだよな。遊びじゃない。」
 「そ、そうだけど。」
 「じゃあ、これからも誘う。」
 「…………うん。」
 「今、ここで家に入れて貰えば、すぐにおまえは俺を好きって言うだろうな。………ベットでは素直になるもんな?」
 「………っっ!!」


 最後の言葉を、耳元で色っぽい声のまま囁かれ、夕映は体が震えてしまう。

 夕映は、彼の腕から逃げるように車のドアを開けて外に出た。



 「絶対に家になんか誘わないわ。」
 「………それは残念。」


 真っ赤になっているだろう夕映の顔を見て、斎はクククッと笑った。


 「じゃあ、また誘うからな。」
 「………私が行くかはわからないわよ。」
 「おまえは来るだろ。」
 「………知らないっ!」


 夕映は、バンッと車のドアを閉める。
 すると、斎は片手を上げてから、ゆっくりと車を走らせて去っていった。


 夕映は彼の事を見送る事なく、カツカツとマンションの中へと入っていった。
 
 夕映の頬に、我慢していた涙が一筋だけ流れた。

 彼の切ない表情と、いつもの得意気な顔。
 斎は、今どんな顔をしているのだろうか。そう思いながら、夕映は赤くなった頬を両手で包んだのだった。