諦めてくれたんだ。
 もう、彼が付きまとってくる事もなくなる。

 自分が告白を断ったのだし、好きにはなってないと言ったのだ。
 これで終わりになる。
 よかったはずなのだ。

 それなのに、心はざわめいていた。
 彼との時間はこれで終わってしまう。
 これが最後になってしまうのだろう。そう思うと、寂しくて切ない気持ちに襲われた。
 
 好きじゃないとしても、彼といる時間は好きだった。もっと一緒に居たい。そう思わせるほどに楽しかった。

 でもここで、「友達として付き合って。」とは言えない。彼は、自分に好意を持ってくれているのだ。それなのに、付き合わないけど傍に居て欲しいなど、残酷すぎるだろう。

 彼を引き留めたいけれど、その方法がわからずに夕映の自宅に向かう道をただ無言で過ごすしかなかった。


 道を案内し、すぐに夕映の住むマンションに到着した。
 お礼を言って、すぐに車から降りなければ。そう思うのに、体が動かない。


 「ここだろ?着いたぞ。」
 「うん……その、送ってくれてありがとう、斎。」
 「あぁ……。」


 しばしの静寂。
 彼とこんなに近くで話せるのは最後になるのだろうか。そんな事を思い、最後に彼の顔を見よう。悲しくならないように。

 そう思い、ゆっくりと顔を上げる。
 すると、彼の視線が合ってしまう。
 彼はとても切ない顔をしており、一瞬見ただけで、夕映は涙が込み上げてきてしまう。


 「ご、ごめんなさい。じゃあ……。」