そう思ってしまった事が申し訳なくなった。それに本当ににそうだとしたら、彼といるのは危険だと思った。
矛盾した気持ちを抱えながら、ガタッと椅子から立ち上がった。
「そんな相手になるつもりはないわ。」
「……だからっ。」
「帰る!」
「おいっ、待てって!」
パソコンを閉めて、荷物を持ってこの場から離れよう。
彼といると心がざわざわする。
また、好きになってしまいそうになるのに、それを迷う自分。そして、もっと好きにさせてくれない言葉が、夕映を苦しめたのだ。
けれど、またしても彼はそれを止める。
腕を掴んで止めるのは、何度目だろうか。前回と、そして昔も………。
「離して。他の人も見てるよ?斎は有名人でしょ?」
「そんな事どうでもいいだろ?俺は好きな奴と一緒にいるだけだ。周りなんて関係ない。」
斎はそういう人だった。
どんな時も、彼は注目の的で、沢山の人を羨望や好意、そして嫉妬などの眼差しで見ていたはずだった。
けれど、彼は全く気にすることなどなかった。
堂々と自分のきままに好きなことをする。それが斎という男だった。
大学の頃、気持ちがいいからとベンチで本を読んでそのまま寝てしまい、みんなに盗撮されたり、自分で買った高級車やバイクで登下校していたりと、とても自由に生きていた。
それが、彼の自信を表すようで、夕映はとても羨ましかった。
夕映自身は、周りの目を気にすぎる所があり、思うように動けないので、正反対だなとも思っていたのだ。
そんな所は今でも、変わっていない。
羨ましい。
………心が黒くなっていくのが、わかった。
「………ズルいよ………なんで……。」
「ん?何か言ったか?ほら、家まで送るから。」
呟くように出た言葉は彼に届くことはなかった。
彼に腕を引かれながら、静かな図書館を2人で歩いた。
手からは彼の熱が伝わってくるけれど、今は安心など出来るはずがなかった。