彼が去った後に、夕映は窓を開けて部屋の中に温かい風を入れる。そのお陰で少しだけ、気持ちが和らいできた。
「ごめんなさい。………本当は、好きだったのかもわからないの。」
彼といて、楽しいこともあったし、柔らかな気持ちになれた。それは彼ともっといたいという気持ちがなかったわけでもない。
けれど、それが「好き」という気持ちなのかと思うと、それは違っていたように夕映は感じていた。
「もう、あんなに夢中になれる恋は、出来ないのかな………。」
そう呟きながら思い出すのは、学生の頃の恋人だった。
その時、彼の事を考えない時はなかった。
彼といる時間はいつもドキドキしたし、幸せに満ちていて、視線が合うだけで嬉しかった。
キスをされれば、瞳が潤んでしまうほど幸せで、抱き締められると鼓動が早くなっていた。
彼以外で、そんな風に好きになる人が出来るのだろうか?と、夕映はいつも思っていた。
だからこそ、告白されれば付き合ってみたけれど、彼ほどに夢中になれる相手は現れなかった。
1年以上に続いたのは彼以外に1人だけだった。
「斎…………嫌いになったはずなのにね………もう別れてから6年も経つんだよね。こんな風に思ってしまうのは、未練がましいのかな。」
独り言を春風にのせると、その言葉はあっという間に消えてしまう。
夕映は、開けたばかりの窓をゆっくりと閉めた。
その頃には、先ほどまで恋人だった彼と別れ話をした事は、頭の隅っこに追いやられてしまっていた。