「ここに、斎が来たら………、また告白されるのか…………な。」
彼は、酔っていない時ならいいんだなと言って、やり直しの話を1度取り止めた。
けれど、かなり渋々だったので、きっと次に会ったらすぐにでも同じことを言ってきそうだ。
そしたらば、断ればいいだけなのだが、それが簡単に済む相手ではないのだ。
それに、彼に流されてしまいそうな自分もいるのに、夕映自身も気づいていた。
彼の前に立つと、彼に翻弄されてしまう。そして、それが嫌だと思えないのだ。
今はまだ自分の気持ちに整理がつかないので、彼に「やり直そう。」と言われても、本当の気持ちを伝えられないだろう。そう、夕映は思った。
そんな事を考えているうちに時間は刻々と過ぎていく。
気づくと時計は9時半を過ぎていた。
『すぐにホテルに行く』という、懐かしい斎の字とにらめっこをしながら、考えに考えて………。
夕映は、10時ギリギリになってから斎にメールしたのだった。
その後。
彼からは「遅い。」というメールだけがすぐに来た。
それにも、怒ってしまいそうになったが、豪華なホテルを堪能でしたのだからと、その気持ちを心の奥底にしまった。
「そして、1週間連絡来ないってどういう事なの………?」
鳴らないスマホを見つめながら、夕映はため息をついた。
大学のテニス部の飲み会から約1週間が過ぎた。斎に「やり直したい」と迫られたが、それ以降ぱったりと連絡がないのだ。
やはり、その時限りの言葉で、遊び相手を誘う文句だったのだろうか。
そう考える度にため息が出てしまう。
仕事をしながらも、彼からの連絡を気にして集中出来ずにいたため、いつもより仕事のペースが遅くなっていた。
スマホの電源を切ってしまおうとも思ったが、いつ仕事の電話が入るかわからないので、そうもいかなかったのだ。
仕事中はなるべくスマホを見ないようにだけしようと心に決めて、その日は仕事に励んでいたのだった。