豪華な部屋と夜景を一人占めしながらも、夕映の気分は晴れなかった。
 気分を上げよう、大きな浴槽に入って体を温めても、考えるのは斎の事ばかりだった。

 大学を卒業してから何も連絡してこなかったのに。ジムで私がいるのをわかっていたのに、声を掛けても来なかったのに。

 少し話しただけなのに、よりを戻そうと思うのだろうか。

 そんな文句をブツブツと頭の中で繰り返しながら、夕映の胸が自分でも不思議なぐらいドキドキしているのだ。
 
 遊びじゃなく、恋人になって欲しいと告白された。そして、断ってもまた会いに来てくれるとも言われた。
 それが、嬉しかったのだ。


 自分の気持ちはそうなのに、頭では「それでいいの?」と、冷静に考えてしまう。

 あの頃、夕映は斎が大好きだった。
 けれど、別れを決めたのだ。
 それぐらい、悲しんだのに。また、彼と一緒にいてもいいのだろうか。

 自分は許しているのだろうか。


 そう思ってはため息しか出なかった。


 大きすぎるベッドに入って、貰った名刺を見つめる。
 そこには会社の名前だけで、社長とも何も書いておらず、ただ「九条 斎」とあった。彼らしいなと思いながらも、その名前の下にある連絡先に触れながら、目を瞑った。




 「斎………また、好きになってもいいのかな。」


 そんな言葉を呟いたのを、夕映自信も気づかないまま、眠ってしまったのだった。