1話「いつもと同じ別れ」
「ごめん……他に好きな人が出来た。だから、別れてくれないかな。」
水無瀬夕映がそう恋人に告げられたのは、冬も終わり、少しずつ春風が吹き始めた頃だった。
夕映に話があると言って、自宅に来た今の恋人が話したのは別れ話だったけれど、夕映はたいして驚きもしなかった。
会社の取引相手なのか、時々見かける夕映を見て気になってくれたらしく、声を掛けられたのが今の恋人との始まりだった。
優しくて、笑うと子ども見たいで可愛く愛嬌のある年下の男性だった。読書が趣味で、よく本屋や図書館に一緒に行ったり、デートも落ち着いた雰囲気の場所を選んで出掛けていた。
仲は良かったと思う。
けれど、それだけだった。
今年入ってから、彼と会う時間が少なくなってきた。
会っていても、少しぎこちなかったし、悲しげな顔をしている事が多かった。
そして、付き合って約半年で別れを告げられたのだ。
夕映はとても冷静で、好きな人が出来たから会う回数が少なくなってたのか。と、思っていた。
「うん。…………わかった。」
夕映がそう言うと、彼は少しポカンとした後に、苦笑した。
「付き合う前、夕映は「付き合ってから恋をしたい。」と言ったよね。…………俺と付き合って、恋愛は出来ていた?」
「……………うん。出来たよ、ありがとう。」
夕映が少し迷いながら返事をすると、「それならよかったよ。」と、苦い顔のまま夕映の前から去っていった。