浮かれるほどに楽しい時間でも、終わりはやってきてしまうのだ。
久しぶりに学生に戻ったように彼と話しが出来たのがよほど嬉しかったのだろう。自分でも驚くぐらいに帰るのが寂しくなってしまった。
けれど、ここで帰るのを渋ってしまえば、どういう意味になってしまうのか。
学生の頃とは違うのだ。大人になったからの意味を、夕映は理解していた。
気持ちが顔に出てしまう前にと、バックを持って立ち上がると、彼も立ち上がった。
会計は彼が済ませておいてくれたのか、そのまま店を出た。
お酒のせいなのか、夕映は少しだけ意識がぼーっとしていたけれど、もう少しで彼と別れてしまうのだと思い、寂しさと焦りに襲われていた。
そのまま、別れてしまえば、また彼のテニスしている姿を見つめるだけになってしまう。
友達としてでも、彼と一緒に居たい。
けれど、そう彼に言えるはずもなかった。
彼をふったのは私なのだから。
そして、まだあの事を………夕映は悲しい記憶として忘れられずにいるのだから。
ポンッと、エレベーターが到着した事を告げる音がなった。
斎の後を追うようにして、エレベーターに乗り込む。
俯いたままだった夕映が顔を上げると、エレベーターの矢印の表示が上を向いているのに気づいた。
ハッとして、彼の方を見ようとした時だった。
彼に、肩を抱き寄せられ、気づくと彼の唇が自分の唇に優しく合わさっていた。
斎に、キスをされている。
そうわかっているのに、甘い刺激と彼の力強い腕に捕まえられて、体を離す事が出来なかった。
あぁ、キスまでも昔と同じだ。
そんな甘い記憶を思い出しながらも、斎のキスを体全体で味わうように、身を委ねるしか夕映には出来なかった。