4話「昔と同じ」





 社会人になってから初めて斎のスーツ姿を見たけれど、細身で少し光沢のある黒いスーツを彼は見事に着こなしていた。
 雑誌から出てきたモデルのような姿に、目を奪われそうになるのを、夕映はなんとか堪えていた。

 夕映はあまり彼を見ることが出来ず、カウンター席に運ばれてきたワインを飲むだけだった。



 「どうしたんだ?さっきから黙って。久しぶりの再会だろ?」
 「……斎がここに誘ったんじゃない。私は依央くんと話していたの。」
 


 そう言ってしまってから、夕映は後悔してしまう。
 どうして、こうやって可愛げのない事を言ってしまうのだろうか。
 久しぶりに会えて嬉しいと思っているはずなのに、そんな事を言ってしまう自分に内心ではため息をついていた。


 けれど、そんな夕映の言葉を聞いても彼は何故かニヤついた表情で夕映を見ていた。その表情の意味がわからず、夕映は不思議に思って彼を見つめ返す。
 大好きだった彼の青い瞳がとてもキラキラしているのを見て、昔と変わっていない事に少しだけ嬉しくなった。


 「おまえが俺と話したいんだと思ったんだけど?」
 「私が?な、なんで………。」
 「おまえ、ジムのテニスコートで俺の事いつも見てるだろ。」
 「っっ!!」


 彼の言葉を聞いて、夕映は息を飲んでしまった。
 こっそりと見ていたはずだった。
 彼にバレていないと思っていた。

 彼のテニスをする姿をとても綺麗だと思ってみていたのだ。夢中になりすぎて彼がこちらを見ていたのに気づかなかったのだろうか。

 そんな風に考えながらも、自分が盗み見をしていた事がバレていたと思うと、一気に恥ずかしくなってしまい、顔だけではなく耳や首まで真っ赤になってしまっているのがわかった。
 慌てて彼から顔を背けて、ワインをゴクゴクと飲んでしまう。