「それと、夕映。約束は覚えてるよな?」
 「えっと………もしかして、あれ?」
 「5万部売れたら、俺と一緒に住むって話しだ。倍売れたんだ。約束は守れよ。」

 
 斎と恋人になってからすぐに、彼に一緒に住まないかと誘われていた。
 彼と一緒にいられるのはすごく嬉しいし、一緒に住みたいと思っていたけれど、付き合い始めたばかりなのだ。
 夕映は断り続けていた。

 けれど、俺様の斎だ。
 それをずっと我慢しているはずもなく、1つ提案をしてきたのだ。
 初めて出版した本が5万部売れたら、すぐに同棲してくれないか、と。
 
 出来たての出版社が出した本が、そんなに売れるはずないと思っていた夕映は、「わかった。」と簡単に返事をしてしまった。
 けれど、九条家の力を甘く見てしまっていた。

 斎はいたるところに、アプリや本の宣伝をし、あっという間に知名度を上げてしまったのだ。そして、本も原作が良かったこともあり、あっという間に売れて人気になった。
 完璧に斎に負けてしまったのだ。

 みんなに読んでもらえて嬉しいはずなのに、夕映はどうしても素直に喜べないでいた。


 「なんだよ。俺と住むのはイヤなのか。」 
 「そ、そんなことないよ!嬉しいけど……なんか、恥ずかしいというか、照れる……。そういうのしたことないから。」
 「……当たり前だ。誰かと同棲したことあるなんて。」
 「斎はないの?」
 「ないに決まってるだろ。ここに女を入れたことさえない。」
 「……そうなんだ。」


 それを聞いて、夕映はホッとしてしまった。
 斎はモテるはずだ。きっと何人もの女性と関係があったのだろう。仕方がないことだけど、それを考えるだけで少しだけ苦しくなってしまう。
 けれど、ここに来たことがある人は自分だけなのだと知れて、夕映は嬉しくなった。
 彼の特別なのだと実感出来た。



 「はぁー……おまえ、その顔は反則だろ。」
 「え、どんな顔してた?」
 「俺が好きだって顔。」
 「っ!?」


 夕映は一気に顔が赤くなるのがわかって、両手で頬を隠した。その様子を、斎はニヤニヤしながら見つめていた。



 「なぁ、夕飯の前におまえを貰っていいか?」
 「だ……。」
 「ダメとは言わせない。」


 斎は、椅子から立ち上がり、夕映の傍に来ると顎に指をかけて、夕映の顔を上げた。


 「斎………。」
 「その恥ずかしそうにしてる顔は誘っているとしか思えない。」
 「そんなことない………っっ……。」


 最後の言葉は、斎の唇で塞がれてしまった。
 ワインの味がするキスで、夕映は一気に酔ってしまいそうだ。


 「愛してる。これからは、いつも一緒だ。」
 「………私も。」


 俺様で勝ち気な彼に翻弄される日々を想像してしまう。すると、こんな風に彼にドキドキされっぱなしな自分が思い浮かび、自分の体がもつのか心配になった。


 けれど、それも素敵な時間になる。
 2人でいれは、幸せなのは十分に実感していた。だからこそ、今まで以上に一緒にいればもっと素敵になる。


 そんな予感がしていた。






                (おしまい)