エピローグ
「これ、ここに置けばいいのか?」
「うん!斎、あとワイン開けて欲しいな。」
「わかった。」
今日はいつもより早めの夕食。
斎も普段より数時間も早く帰ってきてくれている。
「よし!じゃあ、ご飯も完成したし、食べようか。」
「あぁ。」
今日は2人にとって特別な日になった。
そのため、夕映はお昼過ぎから斎の部屋に来て、晩御飯の準備をしていた。
「乾杯しよう。」
「そうだな。……10万部決定、おめでとう。」
「おめでとうー!」
持っていたグラスを2人で鳴らし、赤ワインを一口飲んだ。爽やかでフルーティーな甘いワインで、夕映好みのものを斎が選んでくれたようだ。
斎と夕映が作った海外アプリで、1冊の本を作った。あの日、斎が見つけてくれたおすすめのファンタジーものだ。
それを夕映が翻訳し出版すると、口コミであっという間に噂が広まり、品切れが続いたのだ。それで慌てて重版しても、すぐに売り切れ……それを何回か繰り返し、気づくと10万部も売れていたのだ。
そのお祝いを今日は2人でする事に決めていた。
「すごいね!あんなに読んでもらえるなんて。斎が選んできた本はやっぱりすごいんだよ。」
「おまえの翻訳も評判だろ。子どもにも読みやすく、大人でも楽しめるって。」
「それを聞いて安心したよ。次は恋愛ものだけど、それも楽しんでもらえるといいね。」
「あぁ。」
翻訳の仕事は順調で、次々に翻訳をして欲しいと募集が増えていった。
斎と翻訳家を増やそうかとも話してはいたけれど、今は2人だけでゆっくりとやっていきたいと夕映は思っていた。
2人の約束から出来た小さな出版社。
それを大切にしたかったのだ。