夕映はそう思って、高いマンションをもう一度だけ見つめた後、後ろを向いた。
「夕映っ!」
バンッと言う乱暴に車のドアを閉める音の後に、自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
その声が誰のものなのかなんて、すぐにわかった。
夕映が、振りかえると、駐車場から駆けてくる銀髪の彼が居た。
「………斎………。」
「おまえな、探したんだからな。ったく、家で待ってたらこっちに来てるし……。連絡ぐらい寄越せ。」
そういえば、スマホで連絡すればよかったんだと、夕映は今更気づいた。
呆れた口調でそう言いながら、斎はゆっくりと夕映に近づいてくる。
スーツ姿の彼は、少し髪が乱れており、そしてネクタイも緩んでいた。
仕事が終わってから、ずっと待っていてくれてのだろうか。
それを思ったら、夕映は込み上げてくるものがありそれをグッと我慢した。
彼に酷いことをしてきたのに、斎はまっすぐな愛情をいつも夕映にくれるのだ。
それが嬉しくて、幸せで……そして、申し訳なかった。
夕映は、近づいてくる彼を見つめていたが、もっと彼に近づきたくなった。
斎の顔が見たい、彼の香りと熱を感じたい。そう思うと、体が勝手に動いていた。夕映は斎に駆け寄り、斎の胸に飛び込んで強く抱き締めたのだ。
「ごめんなさいっ……斎。私、斎の考えてることわかろうともしなかった。」
「………夕映。いいんだ。俺がそうしたくなかっただけだしな。……それに、今おまえが理解してくれたからいい。」
夕映が何を言おうしているのか、斎はすぐに察したようで、夕映の体を抱き返してくれる。彼からは変わらない爽やかなグリーンの香り。それを感じるだけで夕映はホッとしてしまうのだ。
「………南から話は聞いたよ。………南を止めてくれた事、そして南の事を考えてくれてありがとう。私、斎のおかげで南ともこれから大切な友人でいられるよ。」
「そうか……。よかったな。」