33話「数年ぶりの夜」
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今日は夕映の誕生日だ。
夕映自身、社会人になってから、こんなにも自分の誕生日を意識した事はなかったかもしれない。
今日は1年でも特別な日だろう。
だから、もしかしたら斎が会いに来てくれるのではないか。そんな予感があった。
けれども、それはただの希望だった。
スマホは彼からの連絡の通知を伝えてくれないし、玄関のチャイムも鳴らない。
それなのに、南がお祝いしてくれなければ、寂しいだけの1日になっていたはずだった。
けれど、今、夕映は走っていた。
ヒールの音を夜道に響かせて、ハッハッと浅い呼吸を繰り返しながら。
目的は斎の家。
駅から近い、タワーマンションに住んでいると斎から聞いたことがあった。とても住みやすいの評判のマンションだったので、夕映もよく知っていた。
彼に会えるかなどわからない。
けど、今すぐに夕映に会いたかった。
会って、謝りたいと思った。彼の思いも知らずに、ただ「本当の事を知りたい。」だけを考えて、信じようともしなった自分を。
そして、会いたかったと、自分の気持ちを伝えたかった。
電車に乗り、駅を降りてすぐに走った。
聞いていた通り、すぐにそのマンションが目の前に姿を表し、迷うことなく夕映は足をすすめた。
けれど、マンション付近に着いてからフッと思った。斎の住んでいる部屋がどこなのかわからないのだ。
「何やってんだろう……部屋がどこかもわからないのに来ても意味ないじゃない。」
苦笑いを浮かべながら、夕映はマンションを見上げた。彼は帰ってきてるんだろうか、それとも別な誰かと一緒にいるのだろうか。
そう考えると、斎と会うのが少し怖くなってしまう。
今日は彼には会えない日だったんだ。