はっきりとした口調で言う斎の言葉に、南はハッとした。
 斎は全て夕映のために考えて動いていたのだと。それが彼女と付き合えなくなる原因だとわかっていても、夕映が傷つかない方を選んだとわかり、斎の優しさを改めて実感した。そして、斎は夕映がとても大切なのだとも。


 「あの時は、あんな事を言ってしまってごめんね。」
 『別に。気にしてない。』
 「……俺の方こそ言い過ぎた、とか言わないんだね。」 
 『あれは俺の本音だからな。』
 「………斎くん、らしいね。」
 

 夕映と斎のお陰で、気持ちがすっきりした南は、思わず冗談を言い笑ってしまった。
 電話越しの斎の口調も少し柔らかくなったのを感じ、南は安心した。


 「夕映ちゃん、今、斎くんのところに向かってると思うよ。」
 『そうか。わかった。』
 「………ありがとう。………あの時、私を叱ってくれてくれて。」

 
 南は、心の中にあった彼に伝えたい気持ちを素直に伝えた。
 好きになれて幸せだった事。そして、告白を聞いてくれた事。そして、今電話をしてくれている事を。
 

 『俺が弱いだけだ。……あいつに嫌われるのが、去っていかれるのが怖かったんだ。』
 「それでもいい……私は今良かったと思えるから。電話に出てくれてありがとう。」
 『あぁ。』


 斎の言葉を聞いてすぐに、南は通話ボタンを押した。
 そして、そのまま「九条斎」の連絡先を削除した。


 「さようなら、大好きだった斎くん。……私の友達を大切にしてね。」


 そう呟いた後、南はスマホをテーブルに置き、残っていたコーヒーを一口飲んだ。
 氷が溶けたアイスコーヒーは、少しだけ苦味が薄くなったように感じた。