「私、怒ってるんだよ。斎にそんな事を頼んでしまった事も、それを内緒にしていた事も。………すごくすごくショックだった。」
 「……………ごめん。」
 

 夕映は、南の頬から手を離した。
 そして、悲しげな顔で、南を見つめた。


 南がした事は、確かに夕映を傷つけた。
 友達と恋人が1回でもそんな関係になってしまっていたら……と考えると、悲しみが押し寄せてくるようだった。
 けれど、夕映も斎と恋人になれなくて告白しても断られたら?そう考えると、1回でいいから彼に触れてもらいたい。そう思わないか、と考えると夕映は「絶対に思わない。」とは言えないと思った。
 
 だから、南を憎む事は到底出来なかった。


 「………けど、こうやって終わりにしようとするのが1番怒ってる。それに、斎は怒ってたかもしれないけど、それは南に「自分を大切にしろ」って言いたかったんだと思う。もし、他の人だったら、何も言わずに無視してると思うから。………南ちゃんの気持ち、わかる。けど、私は傷ついた。」
 「………ごめんなさい。」
 

 南は驚いた顔を見せた後、ゆっくりとそして深く頭を下げて謝ったのだ。
 それを見て、夕映は苦笑した。


 「だから、またこのケーキ作って私に食べさせて欲しいな。今度は超高級なフルーツ使った高級ケーキにしてね。」
 「…………そんな事だけでいいの?」
 「いいの………私が南のケーキ食べたいだけだから。………それに………。」


 夕映は、そう言うとゆっくりと立ち上がった。


 「………このケーキ、やっぱり今日は持って帰れないから。………私、行かなきゃ行けない所があるの。」
 「うん………。」
 「南ちゃん、またね。」
 

 夕映がいつものように南に別れの挨拶をする。その顔は少しだけ強張っていると、夕映自身わかっていた。
 それを見て、南は驚いた顔を見せた。そして、いつもと同じ表情で微笑んだ。


 「またね、夕映ちゃん。素敵な誕生日を。」

 
 いつもの明るい口調で、南は夕映を送り出した。