「夕映ちゃん、私のせいじゃないなら何を悩んでいるのか教えて欲しい。」
 「…………南ちゃん。私、南ちゃんにずっと隠してたことがあるの。これを聞いたら、嫌われてしまうかもしれない。それでも、話さなきゃいけないって思ってたのに、ずっと話せなかった。……その話、聞いてくれる、かな?」


 南は少し眉を下げて、心配そうにこちらを見ながら「うん。」と小さな声で返事をした。

 夕映は持ったままだったフォークを置き、手を膝の上に置いた。そして、その手をぎゅっと力強く握りしめた。


 「南ちゃんが斎に気持ちを伝えてくるって言った日。ただ一人で待っているのは落ち着かなくて、体を動かそうと思ってテニスをしようと思ったの。そしたら………南ちゃんと斎が部室で話していて。」
 「………その話、聞いてたの?」
 「全部じゃないの。少しドアが開いてたから……その時に斎が南ちゃんのことを、その……「嫌いだ。」って、言っただけ聞こえて。」
 「そういうこと、か………。」
 「斎がどうしてそんな事を言ったのかわからなくて。それだけが、どうしても理解出来ないの。大切な人に傷つけるような言葉を言ってしまうような人じゃないって思ってるのに。……理由を聞いても、斎は教えてくれなかった。だから、どうしても彼の付き合える気持ちになれなくて。……ねぇ、斎はどうしてあんな事を言ったのか、南ちゃんはわかる?」


 夕映は混乱している気持ちを、ゆっくりと丁寧に南に教えようと正直に伝えた。 
 南に自分の気持ちが上手く伝わるか不安だったけれど、それは杞憂だった。
 南は、全て理解したかのように、肩を落として、切なげに苦情していた。



 「斎くんは優しいね。………嫌いな女の事なんか、気にしなくてもいいのにね。」
 「………南ちゃん……?」
 「嫌われてしまうのは、私の方だよ。夕映ちゃん。私の方が、夕映ちゃんに酷いことをしてるんだから。」
 

 先ほどまでのまっすぐな視線が、今はない。南は俯いたまま、昔の事を思い出すようにゆっくりと話し始めたのだった。